今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「そこまで言ってくださるなら……プロポーズ、お受けします……悠生さん」

彼のことをファーストネームで呼んで――ベッド以外で呼ぶのは初めてだ――あらためてダイヤの小箱を受け取った。

近くで見ると、すごく大きなダイヤだ。加工したら、とても立派なエンゲージリングができあがるだろう。

「気に入ってくれた?」

彼がちょっぴり不安そうな顔で尋ねてくる。

「はい。とても……驚きました。まだ実感が湧かなくて」

彼が結婚について真剣に考えてくれていることはわかった。

少しだけ抱えていた不安が和らぎ、肩が軽くなる。

シングルマザーになってもかまわないと覚悟を決めてはいたものの、心のどこかで漠然とした心細さを感じていたのは確かだから。なにしろ、初めての出産、初めての育児だ。

彼が――悠生さんが一緒に父親になってくれると思うだけで、幾分気が楽になる。

ホッと息をついていると、うしろから奥様がやってきて「お待たせ致しました」と前菜をテーブルに置いた。

「こちらこそ、お待たせしてすみません」

彼が苦笑するのを見てハッとする。もしかして、プロポーズが終わるまでずっと待ってくれていたのだろうか。
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