今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「……ありがとうございます」

私が彼を信じられず、ひとりで産もうかと悩んでいる間に、彼は着々と新生活に向けて準備をしてくれていたんだ。……私を妻に迎えるために。

「大変だったんじゃありませんか?」

手間も、お金も。そんな私の心中を察して、彼がクスクス笑う。

「我が家の財政が気になる?」

「あ……いえ……心配しているわけではないんですが」

だって、年収一千万は軽いと言っていたくらいだもの。この家のどこを見ても上質なもので囲まれていて、彼の中ではこれが普通なのだとわかる。

「借金するほど使ったりはしていないから大丈夫だよ。妻と子どものためには相応の投資をしたいし」

そう言って差し出したのはICカード――この家の鍵だ。

「いつこの部屋に来てくれてもかまわない。とはいえ、いきなり違う環境というのもストレスがかかるかもしれないし、慣れるまでは週末だけでもかまわないよ。できれば、臨月までには一緒に住めるようになれるといいな。出産はうちの病院でしてほしいし」

この先の段取りも入念だ。

もっと前に彼の気持ちを確かめておけばよかった。少なくとも妊娠が発覚したあのときに。

そうすれば、無駄に悩むこともなかったのに。
< 157 / 275 >

この作品をシェア

pagetop