今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
どうやら母は、後継ぎになる意思があるのかどうかをハッキリさせたいらしい。

どんなに家柄がよくても、後を継がなければなんの恩恵も受けられないのだから。

その意図に気づいた悠生さんは苦笑する。

「ええ。いつかは。父も私に任せたがっています。ですが、まだ先の話です。今は父が元気ですから」

ふたりの会話を聞いてハッと気がついた。

そうか、悠生さんは、いつか関西に戻って実家の大病院を継がなければならないんだ。

ということは、私も会社を辞めなければ。あるいは、関西支社に転勤とか?

ううん、そもそも、妊娠したことをまだ会社に伝えていないのだ。出産後も同じように働かせてもらえるかわからない。

百合根さんだって、出産を期に編集長の座を退いた。私も多少なりともプレッシャーを受けるかもしれない。

「――杏、杏?」

母の呼ぶ声にハッと我に帰る。気がつけばひとり考えに浸ってしまっていた。

「もちろんそのときが来たら、関西に行って西園寺さんをお助けするのよね」

「あ……ええ。そうね」

さすがに東京に残りたいとは言えない。私の仕事はどこでも見つかるだろうけれど、悠生さんはその場所に必要不可欠な人なのだ。大病院の跡取りなのだから。
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