今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「身構えないで。まだ当分先の話になるだろうから」

彼はなだめるように私の背中を撫でる。

大丈夫、どこに行ったって通用するライターになればいいだけのこと。

でも、その前にまずは子育て。仕事と育児の両立だ。

「どうか娘をよろしくお願い致します。いい、杏。西園寺さんにご迷惑をおかけしないようにね!?」

「大丈夫、わかってるわ」

つい先日まで大反対していたはずの母が、手放しで喜んでいる。

ずいぶん調子がいいじゃないかと少し腹立たしい気持ちになったけれど……まぁ、安心してくれたのならよかった。予期せず親孝行になったわけだ。

「とはいえ、問題が少し残っているのよね」

母がため息交じりにぽつりとこぼす。

「どうしたの?」と尋ねると、「いえ、たいしたことではないんだけれど……」と言いにくそうに口を開いた。

「長門さんが、杏のことを結構気に入ってくれていたみたいでね。婚約破棄だ詐欺だとごねているのよ」

ごねるもなにも、婚約をした覚えはないのだけれど。もしかしてうちの母、私に内緒で口約束をしていたのだろうか。
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