今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「私のお腹に子どもがいるってことは伝えたんでしょう?」

「それは伝えたのだけれど。もう式場を予約してしまったらしくて、キャンセル代と慰謝料を請求するって言っているのよ」

「その程度でしたら私が支払いますよ」

悠生さんが頼もしいことを言ってくれる。

正直、母が勝手にしたことなのだから、悠生さんに支払わせたくはないけれど、もし何百万と請求されたら私では支払いきれないし、母に支払えというのも酷だろう。

「式場って、いつ予約したの? キャンセル代っていくらくらいかな?」

「一年後って言っていたわよ。まだまだ先のことだから、せいぜい内金程度のものだと思うのだけれど」

「問題は慰謝料ですね。式場の準備にこちらが同意したとすれば、支払いを命じられる可能性が高い」

「……お母さん、同意したの?」

「……つい『素敵ねー、お願いするわー』って言っちゃったのよ」

親子揃って大きなため息をつく。これは言い訳しにくい状況だ。

「とはいえ、その男性が杏さんと会ったのは見合いの日、一度きりなんでしょう? それ以降は一度も連絡を取っていなかったそうじゃありませんか。裏切られたというほどの精神的苦痛があったとは思えないし、婚約の関係性を主張するには無理があるとも言える」
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