今夜、妊娠したら結婚します～エリート外科医は懐妊婚を所望する～
異様な光景だ。見合いであるにもかかわらず、男がひとり、女がふたり。

しかも、見るからに主役である着物姿の女性を差し置いて、男性が溺愛しているのは飾り気のない別の女性――つまり私。

男性の家族は憤慨し、着物の女性の家族は唖然として言葉も紡げない。

彼の狙い通り、お見合いは滅茶苦茶になったわけだ。

それでこそ子どもまで作った甲斐があったというもの。

これは計画的な妊娠。すべてはこの縁談を破談にするため。

「では、俺たちはこれで。籍を入れた際にはご連絡します」

彼は私の肩を抱いて回れ右をする。私は一同に小さく礼をして、彼のあとについていった。

部屋を出ようとした瞬間、「待ちなさい！」と彼の母親が立ち上がる。

「こんなことをして、許されると思っているの！？」

突然怒鳴られ、反射的にびくりと震え上がった。

彼は私の肩を守るように抱いて、母親を睨みつける。

「……大声を出さないでもらえますか。彼女は今デリケートな時期なんだ」

私のために怒ってくれたのか。あるいは、駆け引きのためのフェイクなのか。

どちらかはわからないけれど、彼の顔からは先ほどまでの冗談めかした笑みが消えている。

ああ、本気になった顔だと、横で見ていた私は身震いした。
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