今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
第七章 彼女は前を向いていた
八年前――彼女と出会った頃の俺は、目の前のことこそ真面目にこなしていたものの、熱意があるかと言われれば程遠く、医師という職業をただ淡々とこなしているだけだった。

患者を救う――尊いことだ。

実家の病院を継ぐ――きっと両親は満足してくれるだろう。

だが、なぜ医師という職業を選んだのか?と問われれば、敷かれたレールを抗う気力がなかったというだけ。

『お医者さん』に憧れていたわけでもなく、人を救うスーパーマンになりたかったわけでもない。

『医師』という職業を選んだことに崇高な思想など存在しなかった。

幸い、医者の家系に生まれたせいか、環境には恵まれていた。

学生時代から、実家の総合病院で行われる手術を自由に見学することができ、生のカルテや診療記録も見せてもらえた。貴重な医学書も読み放題だった。

珍しい症例の手術が行われた日には、父親が仲のいい医師を自宅に招いて、手術映像の鑑賞会を行った。

鑑賞後、父はまず俺に意見を述べさせ、それを皮切りに周りの医師たちがあーでもないこーでもないと論争を交わす、それが恒例行事となっていた。
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