今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
基本、患者はみな体のどこかに不調を抱えていて、精神が不安定になっている。

入院、手術などの治療を施したところで、魔法のように元気になるわけでもない。当分の間は不調が続く。

素直に『治してくれてありがとう』と言ってくれる患者はひと握りで、なぜ治らないのかと非難をされたり、もっとうまく治療ができたのではないか、この不調は処置が間違っていたからではないかと、疑ってかかられたりすることのほうが多かった。

なんの過失もないのに医療事故と責められている上級医師の姿を見て、医師という仕事に幻滅したのもこの頃だった。

過酷な割に報われない職業だなんてことを思いながら、モチベーションの湧かない日々をミスに繋がらない程度に淡々とこなしていると。

初期研修で訪れた整形外科の病棟で、とびきり横暴な患者に出会った。

十代の女の子で、リハビリをすれば充分治療可能な症例なのだが、本人が完全にやる気を失っていて、周囲にあたり散らしている。

はっきり言えばモンスターペイシェント――文句の多い患者――というヤツである。

看護師や研修医である俺に文句を言いたい放題でウンザリしつつも、まだまだ子どもだし患者だしなんて理由を連ねて自分を落ち着かせ、叱ることもできず笑顔でかわしていた、そんなある日。

激昂した彼女にコップの水をかけられ、さすがに笑顔が凍りついた。
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