今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
なるべく彼の移動時間を減らそうと、入院棟のほうに向かうと。

中庭から、ちょうどこちらへ歩いてくる悠生さんの姿を見つけ、私は「あっ」と声をあげた。

駆け寄ろうとしたそのとき。

「西園寺くん!」

前を歩いていた白衣の女性が私より先に声をかけた。その横顔を見てハッと息を呑み、慌てて案内板の陰に隠れる。

お見合い相手の女医だ。話しかけられた悠生さんは足を止めて、笑顔を浮かべる。

お見合いが破断して気まずい関係になったのかと思いきや、談笑する姿はとても楽しそう。長門さんから見せられた写真、そのままの光景が目の前にあった。

もしかして……もともと仲がよかったのかな……?

女性と話すときはあからさまに愛想よく取り繕う彼だけれど、今の彼は自然な表情――心の底からの笑顔に見える。

まさか本当に、ふたりの関係は特別なものだったのでは。

でも、だとしたらどうしてお見合いを受けずに私と結婚したの?

そのとき、すぐうしろから話し声が聞こえてきた。

「ねぇ。あのふたりって、付き合ってたんじゃないの? 全然違う人と結婚するって聞いてびっくりしちゃった」

驚いて振り向くと、看護師ふたりが歩きながら悠生さんたちを見つめて噂話をしていた。
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