今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
肩を落とすと、傘の先が地面にあたり、コツッと虚しげな音が響いた。思わず彼用の長傘に目を落とし、途方に暮れる。

傘なんて届けないほうがいいかもしれない。私は病院で働く女性たちに好意的に受けとられていない。

私が病棟に姿を見せれば、陰口の恰好の的になってしまう。私だけならまだいいけれど、悠生さんまで言われるようなことがあったら……。

黒い渦に呑まれるように、ぐるぐると思考を巡らせていると。

「杏?」

すぐうしろから声が聞こえてきて、驚いて振り向くと、目の前に悠生さんが立っていた。

私は動揺からか、あるいは罪悪感からか、なにも答えられずに呆然と彼を見上げる。

「検診はもう終わったの? ……ああ、もしかして、傘を持ってきてくれた?」

私が傘を二本持っていることに気づいた彼は、長傘を笑顔で受け取る。

すると、背後から再びささやく声が聞こえてきた。

「ね、もしかして、一緒にいるあの女……!」

「うわ、職場まで押しかけて来るなんて、こわぁ」

条件反射のようにびくりと肩が震える。

悠生さんに聞かせちゃダメだ。

咄嗟に「あの、検診の結果なんですが……」と無理やり話を捻り出してその場を離れようとする。

しかし、悠生さんの視線は、すでに私のうしろにいる二人組に向かっていた。
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