今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「ねぇ君たち」

悠生さんに笑顔で話しかけられた看護師たちは、しまったという顔で身を強張らせる。その目が笑っていないことに、私も、そしておそらく看護師たちも気づいている。

「言いたいことがあるなら俺に直接言ってくれるかな。別に怒ったりはしないから」

穏やかな声、柔らかな口調なのに、どこか威圧感を感じさせる笑顔。ぞくりと背筋が凍る。

彼は「とは言っても――」と言葉を続けながら、目を細く鋭くした。

「最愛の妻を侮辱されて笑顔でいられるほど、俺はできた人間ではないけれど」

悠生さんが激しく憤っていることをようやく理解して、ごくりと息を呑んだ。

看護師たちもまずいと直感したのだろう、「すみませんでした……」と小さく謝ってすごすごと立ち去っていく。

「……杏。大丈夫?」

悠生さんがこちらに振り向くと、その目からはすでに鋭さが消えていた。不安げに私を見つめている。

「私は、全然……」

いたたまれない気持ちで突っ立っていると、彼は「すまない」と苦虫をかみ潰したような顔で謝った。

「どうして謝るんですか?」

「俺が自分のことを他人に語らないから、周りから勝手な詮索をされてしまったんだと思う」

「それは……悠生さんのせいじゃありませんよ」
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