今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
彼女を救うために結婚を焦っていたのだとしたら。

結婚相手なんて、本当は誰でもよかったんじゃないの?

こんなことを考えて、悲しい気持ちになってしまう私は気にしすぎかな?

「杏、検診のほうはどうだった?」

ぼんやりしていたところに尋ねられ、私は慌てて考えを振り払う。

「ああ、はい。経過は良好だそうです」

無理やり笑顔を作って答えると、彼は「よかった」と短く息をついた。

「本当は家まで送ってあげたいんだけど。ごめん、このあとも予定がいろいろと入っていて」

「大丈夫ですよ。お仕事に戻ってください。わざわざ様子を見に来てくれて、どうもありがとうございました」

これ以上彼と一緒にいると、いっそう不安になってしまいそう。別れを急かすように早口でまくし立てる。

しかし、私の様子がなにかおかしいと感じ取ったのか、彼は私の頬に手を伸ばし眉をひそめた。

「……もしかして、さっきの女性たちから言われたこと、まだ気にしてる?」

「あ、いえ、全然。気にしてませんよ。あ、そろそろ行かないと。これから会社に行こうと思っていて」

からりと笑うと、彼は渋々といった顔で私を解放する。
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