今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
なぜここにいるのだろう。体調不良かなにかで受診するのだろうか。それにしても、外来とは逆方向に向かっているし、手ぶらというのもおかしいような。

なにかに取り憑かれたかのように、ゆらゆらと肩を揺らして不気味に歩いていく。やっぱり異様だ。

ふと長門さんの視線の先に、悠生さんがいることに気づいて、嫌な予感を覚えた。

長門さんは、個人情報不正授受の疑いで会社をクビになった。なぜ罪がバレたかと言えば、悠生さんが彼を調べ上げたからだ。

もし、悠生さんを逆恨みしているんだとしたら……。

そういえば以前も、私が会うのを拒んだら、悠生さんの病院に行くと脅されたことがあった。

あのときも悠生さんや患者さんに危害を加えるのではないかとひやひやしたが、状況的に、今のほうがよっぽど危険ではないか。

悠生さんに対して激しい嫌悪感を抱いていることは間違いない。

さすがに公の場で襲いかかるだなんて犯罪じみた真似はしないと思うけれど。

……ううん、絶対にしないと言える? あれだけ自分のキャリアに誇りを持っていた人がすべてを奪われて、自暴自棄になったとしても不思議ではない。

放ってはおけず、私はこっそりと長門さんのあとをつけることにした。バレないように一定の距離を置いて、彼の動きを監視する。
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