今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「……これはこれは。杏さんじゃありませんか。あの生意気な医者を見失ったかと思えば、あなたに会えるなんて。とんだ幸運でした」

突如、腕を掴まれた。緊張から呼吸が浅く速くなる。

やっぱり悠生さんのことを追いかけていたんだ……。

私は怯えていることが悟られないように、真っ直ぐに長門さんを見据えた。

「こんなところで、なにをしているんですか……?」

「……私からすべてを奪った男に復讐をしに」

恐ろしいことをサラリと言いのけた彼は、やはりどこか常軌を逸しているようで、焦点の合わない目でこちらを睨んだ。

「……ですが、手間が省けました」

不意に、私を掴んでいた手が離れる。にいっと跳ね上がった口角が不気味で、恐怖から目が逸らせなくなる。

「あの男に絶望を味わわせる、もっとも効果的な手段を見つけたので」

言うなり、トン、と。

長門さんが、私の肩を軽く押した。

バランスを崩した私は、うしろに踏みとどまろうとして、右足を下げる。

けれど、そこには地面がなくて。

あったのは、長い長い下り階段――。
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