今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
私の体は重力に従い、背中から舞うように落下していった。地につくまでの時間がやたら長く感じられる。

ふと赤ちゃんのことを思い出し、咄嗟に両手でお腹を庇った。

体を反転させて手でもつけば落下の衝撃を和らげることができたのかもしれないけれど、お腹を下にして落ちるという選択はどうしてもできなかった。

浅はかな行動のせいで、自分のみならずお腹の子まで危険に晒してしまうなんて。

私はなんてことをしてしまったんだろう。

けれど、後悔したところでもう遅い。

どうか、赤ちゃんだけでも助かりますように。

覚悟を決めてぎゅっと目をつむり、浮遊感に身を任せていると。

「杏!!」

突然、私の名を呼ぶ大きな声が聞こえてきて、全身に衝撃が伝わった。

振動が訪れたのは二度。ドンという激しい揺れとともに落下の速度が緩やかになり、再び鈍い衝撃があって今度こそ地面に頽れた。

不思議と痛みを感じない。優しい温もりに包まれていて、とても階段から落ちたとは思えなかった。

恐る恐る目をあけてみると、私の体を抱き込んでいる存在に気づく。

「……悠生、さん……」

私を抱いて倒れていたのは、悠生さんだった。私の体の下敷きになって、苦しそうに「うっ……」と呻きを漏らす。
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