今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「うん。良好良好。もう少しで退院ですね。頑張って」
「西園寺先生のおかげですよ」
「藤村さんが僕の言うことをよく聞いて、しっかり療養してくれたからですよ」
西園寺先生は車椅子を押す看護師に「お願いね」と声をかける。
看護師は「わかりました」と愛想よく答えると、中庭に向かってスロープを下っていった。
しばらくご婦人を見守っていた西園寺先生だったけれど、「さ、行こうか」と私の背中を押す。
私たちは入院棟一階の長い廊下を歩いた。
「……今の方は、先生の患者さんですか」
「そう。開胸手術が必要でね。歳も歳だし、体力も落ちていたからリスクはあったんだけれど、元気になってくれてよかった」
そう語る彼の清々しい笑顔に偽りはなさそうだ。軽薄な医師という印象は微塵も受けない。
少なくともあのご婦人は、主治医である西園寺先生のことを立派なお医者さんだと感じているだろう。
よくわからない人だなぁ……。
しばらく歩いていると、エレベーターホールの脇の自販機で点滴をした患者さんが飲み物を買っていた。
ゴトン、と缶の落ちる音。急に西園寺先生が足を止める。