今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「いやー、つい甘いものが飲みたくなって」

「勝手な飲食はまだダメって言ったじゃありませんか!」

「そうだったっけ?すまんすまん」

「また脱走するなんて。主治医に報告してしっかり叱ってもらわないと」

「え! た、頼む、須皇先生には言わないでくれ! あの先生、西園寺先生より怖いんだよ」

「脱走なんてするから怒られるんですよ!」

看護師さんと患者さんのコントのようなやり取りを見守って、西園寺先生は深いため息をこぼした。

なるほど。歩いている間も周囲に気を配らなければならない理由がよくわかった。

患者さんの一件が片付いて、西園寺先生はあらためて私へ向き直る。

「……で、ここが心臓血管センターの病棟」

「あ……ここが!」

どうやら西園寺先生は私をここに案内したかったらしい。もしかして、仕事中の姿を見せてくれるのだろうか。

「取材でどんな仕事をしているんですかって聞かれるんだろう? 実際に見てもらったほうが早いから」

「助かります!」

わくわくしながらついていくと、廊下を歩いていた女性が西園寺先生の姿に気づき、笑顔になった。

「あ、西園寺先生!」

なんとなく見覚えのある女性、両サイドの小さな三つ編みが特徴的だ。確か、中庭にいた女の子たちのひとりだったと思う。

「また脱走?」

「先生ったら失礼ね! ただのトイレよ!」
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