今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
声を聞きつけた女性たちがぞくぞくと集まってきて、西園寺先生はあっという間に囲まれてしまった。

若い女の子からそこそこ年配の女性まで、年齢層はさまざま。どうやら患者の親族や友人まで混ざっているようだ。

私は彼を取り囲む輪から逃げ出して、三歩ほど距離を置いた。

輪の中心でにこにこと愛想よくしている彼。一気にチャラ度が跳ね上がる。

車椅子のご婦人と接しているときの立派な医師然とした彼はどこへ行ってしまったのだろう。

こんな状況で回診なんてできるのかしら……?

もやもやした気分のまま目線を漂わせていると。

ふと、廊下の曲がり角に身を隠し、こちらをじっと眺めている女の子を見つけた。

真っ黒で艶々のストレートヘア、長めの前髪。歳は中学生くらいだろうか、ブレザーの上にダッフルコートを着ている。

しっかりとコートを着込んでいるあたり、入院患者ではなさそうだ。

西園寺先生に話しかけたそうにじっと見つめているのだけれど……もしかして照れ屋さんなのかな?
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