今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「さ、みんな部屋に戻って、そろそろ検温の時間だよ?」

西園寺先生は集まっていた女性たちをなだめ病室へ帰すと、再び廊下を歩きだした。

だが、うしろの女の子だけはずっとこちらを見ている。このまま放っておいていいものか。

「えっと……先生」

「どうかした?」

「うしろから女の子がついてきているんですけど」

彼が振り向くと、女の子はサッと身を隠した。しかし、その正体に心当たりがあったのか、彼は困ったように笑う。

「また君か」

踵を返し、女の子の隠れている曲がり角に向かって歩いていく。角を覗き込むと、その子を見つけたようで。

「こら。また入り込んだの?」

苦笑混じりに怒ったフリをした。観念したのか、女の子が曲がり角の奥からおずおずと姿を現す。

「まったく、何度も言ってるじゃないか。君はもう健康なんだから、ここには来ちゃダメだって」

彼の口ぶりから察するに、どうやら退院した元患者さんのようだ。

ということは、彼に会うためにここに忍び込んだということ?

遠目から見守っていると、女の子が赤い包みを取り出したのが見えた。

金色のリボンでかわいらしく結ばれている、プレゼントだろうか。
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