今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「モテるどうこう以前に、問題は学校を抜け出してここに来ているってことだよ」

あ、と私は時計を見る。平日の十四時半――おそらく授業中だ。

「せっかく心臓が直ったんだから、病気や医者のことなんて忘れて、早く日常生活に戻ってくれればいいんだけどなぁ」

遠い目をする彼。患者さんの人生に、もう自分の出番はないと思っているのだろう。

でも――。

「自分を救ってくれたお医者さまに恋をしてしまう気持ちは、ちょっとだけわかる気もしますよ……」

同じ患者だった私には、余計にその気持ちが理解できる。

私だってこの八年間、眞木先生への感謝を忘れたことはないもの。

私の場合は尊敬や憧れだけれど、命を救ってくれたお医者さまは自分の中で永遠のヒーローなのだから、それが恋に発展したところで不思議はないと思う。

ぼんやりと眞木先生のことを思い返していると、突然、西園寺先生が真面目な顔で私の手首を掴んだ。

ギョッとして見上げれば、そこにはあまりにも熱い眼差し。いったい何事かと怯んでしまう。
< 42 / 275 >

この作品をシェア

pagetop