今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「……わかりました。すぐに向かいます」

手早く通話を終えた彼は、私のほうに向き直り、さっきの真剣な表情から一転、にっこりと笑った。

「あんずちゃん、ゴメン。今日はここまで。また金曜日にね」

「えっ、ちょ、先生――」

全部言い終わる前に、彼はすでに走り出していた。背中を向けたままひらひらと手を振って、角を曲がったところにあるエレベーターホールへと消えていく。

私があとを追いかけるとすでにその姿はなく、エレベーターが一台、一階に向けて下降していた。

たぶん、本気で急いでいたのだろう。急患かもしれない。

示し合わせたかのように救急車のサイレンの音が聞こえてくる。

……結局私、なんのためにここまで来たんだろう……?

病棟に連れてきてもらったものの、西園寺先生が女の子に囲まれている姿を見ただけで、なにもわからずじまいだ。回診の様子も見られなかった。

でも急患では仕方がない。今日はこのまま帰って、別の仕事を片付けてしまおう。

私はエレベーターを待ち、一階に向かった。
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