今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
もうご両親の前ではないのに。これ以上、恋人の芝居をする必要もないのに。

どうしてまだ優しくしてくれるのだろう?

「嫌なものを見せてすまなかった。疲れただろう?」

「いえ。お役に立ててよかったです」

顔を上げると視線が交わって、まだ鋭かった彼の目から力が抜けた。

そうやって微笑んでいれば、とびきり秀麗なその人。すっと通った鼻筋に形のよい唇、垂れ気味の目はどこか不敵でミステリアス。

背は高くスラッとしていて、身を包む上質なスーツが様になっている。

愛想はよくて、いつもニコニコとしているけれど、たぶんそれは営業スマイル。

真剣なときは、他者を寄せつけないほど鋭い眼差しをするし、たまになにかを企むようなぞっとする表情を見せるときもある。

どうもこの人のことを、私はまだ掴み切れていない。

そして彼の職業は医師。実家は大病院で、いずれ後を継ぐことになるだろうとのこと。

今は別の病院で一勤務医として働いているが、外面のいい彼は、次期院長なんて肩書きをひけらかさずとも、すでに女性看護師たちや患者たちからモテモテである。
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