今夜、妊娠したら結婚します～エリート外科医は懐妊婚を所望する～

表情はうかがえないけれど、その真剣さは存分に伝わってくる。

肌が震えそうな緊迫感。命と向き合う、鋭い眼差し。

次の瞬間、彼とは思えない低い声がマイクに乗ってモニター室に運ばれてきた。

『メス』

小窓の横にあるモニターには、術野が映し出されている。細い刃が、すうっと一本の線を描き出す。

皮膚が割れて、真っ赤な血液がじわりと滲みだした。奥から覗く筋肉、その奥をさらに切り裂くと骨。無意識のうちに私の呼吸まで早くなる。

規則的に響く心電図モニターの電子音。ピッ、ピッ、ピッと、ときたまその音が早くなったり遅くなったりして、その度にひやりとしてしまう。

シューシューという人工呼吸器の音に、器械出しのカチャカチャという金属音。

次に出てきたのはドリルのようなごつい機器。銀色の鈍い光を放つ刃が骨を断ち、ぞっと血の気が引いた。その内側から見える拍動するもの――心臓だ。

剥き出しの心臓を見て、眩暈と吐き気が押し寄せてくる。

覚悟をしていたつもりだったのに、その上を行く衝撃的な光景に、足元がふらついて尻もちをつきそうになってしまった。

「白雪さん！？」

眞木先生が咄嗟に私の体を支えてくれた。心配そうな顔で私を覗き込んでくる。