今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「……君って、結構肝の据わった女の子だね」

眞木先生は困ったように笑う。そんなやり取りをしている間に手術は進んでいく。

「人工心肺装着完了」

「鉗子。術野、もっと広げて」

「は、はい!」

「OK。大動脈遮断」

自信に満ちた彼の指示が飛ぶ。

反対に第一助手の先生は気圧されて少し焦っているよう。

聞こえてくる音声にハラハラしている私に気づいたのか、眞木先生がモニターを操作して音声を消してくれた。少しだけ生々しさが和らぐ。

そのとき、モニター室のドアが開いて、背の高い年配の男性が入ってきた。

三つ揃えの立派なスーツに、手触りのよさそうなコートを小脇に抱えている。手には革のドクターズバッグ。

ロマンスグレーの髪に、歳を重ねても衰えぬ美貌。ナイスミドルといった印象の男性だった。

眞木先生がその姿を見るなり驚いた顔をする。

「院長! そんな格好でどうされたんですか?」

彼がこの病院の院長――ということは、循環器の権威である須皇先生だろうか。確か病院名と同じ苗字だったはずだ。

「実は学会から帰ってきたばかりなんだ。緊急手術が必要になったと聞いてね。少し心配になって直接ここに来た」

そう答えながらも私の胸元のゲストカードに目線を落として「君は……?」とにこりと笑う。
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