今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
眞木先生が私の肩にポンと手を添える。

「西園寺先生のことなら、大丈夫。若いけれどたくさん修羅場をくぐってきた人だから」

小窓の奥をもう一度見つめる。西園寺先生は変わらず真っ直ぐに、患者さんの体と向き合っている。

スッと伸びた美しい姿勢。何時間もああやって揺らぐことなく重心を保つのだって、かなりの体力を必要とするはずだ。

それでも途切れることのない集中力。

「……実は、さっき聞いてしまったんです。西園寺先生が、さっさとオペを終わらせて飲みに行くって話していたのを。もしかして、やっつけ仕事をしているのかなって……」

「やっつけ仕事? それはないだろうな。西園寺先生は成功率にも定評がある。彼なりのブラックジョークじゃない? スピードが速いのは確かだし。俺だったら笑うかも」

「そ、そうですか……」

ドクターズジョークは一般人には理解不能だ……。

いずれにせよ、いい加減な医師ではないことがわかり、私はほっと胸を撫で下ろす。

「それに、手術後の彼の姿を見れば、どれだけ本気で患者さんと向き合っていたかがわかるよ」

「え?」

「この手術が終わればわかるさ。……といっても、あと四、五時間はかかりそうだけれど。先に帰ったほうがいいかも」 

「いえ」

私は小窓の縁に立ちながら、じっと手術室を見下ろした。

「ここで見守らせてください」
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