今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
エンジンをかけながら、彼はちらりと私を覗き込む。

「……お腹の子のことなんですけど」

「ん?」

『俺の子を産んでくれ』そう言って彼は私を抱いた。

もし本当に妊娠できたなら、きちんと父親になるからと。

しかし、冷静に考えれば考えるほど、これが本当に彼の望んでいた未来なのかと不安になる。

彼はなぜ私を生涯の伴侶に選んだのか、その理由も謎のまま。

おそらく、たまたまそこにいた女性が私だったというだけではないかと予想している。

「私は、産みたいと思っています。でも、西園寺先生はどう思ってるのかなって……」

妊娠したと告げたとき。彼は喜んで私を受け入れてくれた――ように見えた。

そもそも、医師である彼が命を粗末にするような選択――『堕ろせ』などとは言えないだろう。

けれど……もしかしたら、彼は後悔しているかもしれない。

愛してもない女性と結婚するのは苦痛だ。先ほどの縁談となんら変わりないではないか。

「当然、産むべきだと思っているよ。そもそも、子どもを作りたいと言ったのは俺だ」

周りに車がいないことを確認して、彼はゆっくりとアクセルを踏み込む。
< 7 / 275 >

この作品をシェア

pagetop