今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
え……と硬直する。横にいたカメラマンは気を遣ったのか「俺は先に帰りますね」と言って笑顔で立ち去ってしまった。

「眞木先生とだって食事したんでしょう?」

「それは取材だったので」

「俺にもご褒美ちょうだい。……と、もうこんな時間か。術前カンファレンスに行かなきゃ」

西園寺先生は腕時計に目を落とし時間を確認すると「電話するね」と一方的に言い放って入院棟の中へ入っていった。

渡せなかった封筒を握りしめたまま、呆然とする。

そういえば、眞木先生とお食事をしたときも『この分の食事代は、西園寺先生との取材のときに使って』なんて言っておごられてしまったんだっけ。

一度お礼もかねて、食事にお誘いしたほうがいいかもしれない。もちろん、この一万円を使うのではなく、残った経費で。

仕方なく、一万円札の入った封筒をバッグにしまい、病院の正面玄関に向かって歩き始めると。

「いたいた! 白雪さん!」

別の入院棟からパタパタと駆けよってくる男性。眞木先生だ。

今日は眞木先生には連絡していなかったのだが、どうしてここにいるとわかったのだろう。
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