今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
その日の十四時、手術が開始された。執刀医は須皇先生だと聞いていたから、院長先生のことかと思いきや、そのポジションについていたのは見たことのない若い医師だった。

「彼は院長の息子さんだよ。アメリカ帰りのエリートなんだって。かなりの腕なんだけれど、国外での経験が多いせいか独特のリズムを持つ人でね。彼の助手を完璧にこなせるのは西園寺先生と院長くらいしかいないらしい」

モニター室で前回と同様、眞木先生が解説をしてくれる。

今日のモニター室は話に聞いた通り満員御礼。おかげで音声を消すこともできなくて、前回よりも生々しい。

「ふたりとも若いのに、たいしたもんだよなー。本当に」

モニター室ではときたま歓声があがる。どうやら須皇先生と西園寺先生のコンビネーションが見事なようだ。

素人の私にわかることと言えば、ふたりの手が目にも止まらぬスピードで動いていることくらい。

結紮――縫合や止血のために血管や臓器の一部を結い合わせることだ――なんて、手がくるんくるんと目まぐるしく動いていて、よくわからない間に糸が結ばれている。

今日の手術時間は四時間半。このケースでその時間は異例らしい。普通の医師がやれば最低でも六時間はかかるとか。

手術時間が遅くなればなるほど、患者さんの体の負担も増えていく。つまり、最速で終わった今日の手術は、大成功だったらしい。


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