今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
西園寺先生は私の肩に手を回し、その権利は自分にあるとでも言いたげに抱き寄せた。

「当直は執刀の須皇先生が。俺が彼女を送っていきますから、安心してご帰宅ください」

眞木先生は「了解」と困った顔で笑って、次いで私に視線を向けた。

「白雪さんも、それでいい?」

「え……えと……はい……」

どうして西園寺先生が私に執着するのかよくわからないけれど、嫌だなんて言えない。私の体に絡みつく彼の腕が、言わせてくれない。

「……もしも怖いことされたら電話して。すぐに飛んでいくから」

冗談なのか本気なのか――眞木先生の言葉に、西園寺先生は「しませんよ」と食い気味に答える。

私の引きつった笑顔を心配そうに眺めながら、眞木先生は手術室のフロアを出ていった。

その背中が見えなくなったところで、彼は「さて」と私に向き直る。

「毎度毎度、見せつけてくれるね。そんなに眞木先生のことが好き?」

嫉妬じみたことを言って殺気立っている西園寺先生を落ち着かせるべく、私は必死に弁解する。

「なに言ってるんですか。手術中は、西園寺先生のことだけを見ているんですよ」

西園寺先生がぴくりと目もとを引きつらせる。胡乱気に私を観察すると、やがてくつくつと笑い出した。
< 91 / 275 >

この作品をシェア

pagetop