今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「そんなことを言って、俺のご機嫌を取っているつもり?」

「だって、私が取材しているのは西園寺先生ですし」

取材という単語を出した途端、彼の目からすうっと温度が失われていった。

あれ? 余計に怒らせてしまった? 焦りから、私の背筋も彼の眼差しと同様、冷えていく。

「そう。俺はただの取材対象なんだ? それって男としては眼中にないって意味?」

「いえ、あの、決してそういうつもりでは」

「よくわかった。もう遠慮はしない。全力で行くことにする」

彼は腰ポケットをあさり、またお財布を取り出したかと思ったら、私の手に握らせた。

「……へ?」

「俺の全財産。カードも家の鍵も入っている。それがないと帰れない」

「……そんなものを、どうして私に」

「それを持って、ここで待機。いいね」

西園寺先生が『家族待合室』と書かれた個室の扉を指差す。

「はぁ!?」

「俺が仕事を終えて戻ってくるまで、その部屋で大人しく待っていなさい」

そう命令調に言い置くと、手術室のフロアを出ていってしまった。

唖然として、彼のお財布に目線を落とす。
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