今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
こんな貴重品を他人に預けるなんて、なにを考えているのだろう、危なっかしい人だ。

確かにこんなものを渡されては、先に帰ることもできないけれど。

はぁと小さくため息をついて、『家族待合室』の扉を開ける。

その名の通り、手術中の患者のご家族が待機する部屋だ。

横長のテーブルにソファが並んでいて、テレビなんかも置いてある。もう夜になるせいか無人だ。

仕方なく私はウォーターサーバーのお湯を紙コップに注いだ。

ソファに腰を下ろし、熱々のお湯にふぅふぅと息を吹きかけて、ゆっくりと飲む。

明日は土曜日。家で仕事はするつもりだけれど、出社をしないで済むから気が楽だ。少しくらい帰りが遅くなってもかまわない。

金曜日であることを思い出して、ふと前回病院に来たときの中庭での出来事が頭をよぎった。

西園寺先生は看護師から懇親会に誘われていたはず。私を駅まで送り届けてから行くつもりだろうか?

……早く行かなくて大丈夫なのかしら?

ぼんやりとそんなことを考えながら五分、十分と待つものの、一向に彼が来ない。

仕方がないので、手持ちのタブレットを広げて、仕事をしながら待つことにする。
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