今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「患者さんに、なにかあったんですか?」

「担当の患者が熱を出してね。様子を見て、当直の医師に引き継いできた」

「お疲れ様です。そういう理由なら、仕方がありませんよ」

「……医師になったことに後悔があるとすれば、これだな。人との約束が守れなくなる」

ふたりで家族待合室を出て、一階に向かった。テンション下がり気味の彼に「私は気にしてませんから」とフォローする。

「忘れて懇親会に行っちゃったのかと思って、少し不安ではあったんですけど」

「懇親会? ああ、今日だっけ。どうして知っているの?」

「中庭で話していたじゃないですか。手術をさっさと終わらせて行くって」

「ああ。あれ」

彼が苦笑する。すっかり忘れていたって顔だ。

「もともと行くつもりはなかったんだ。術後の経過観察があるからとかなんとか言って、適当にごまかすつもりだった。手術したあとでわいわいお酒を飲もうなんて気にならないし。大勢が参加する会だから、俺ひとりいなくなってもかまわないだろう?」

いやいや、女性たちは先生のことを待っていたと思いますよ、と心の中でこっそりとつぶやく。

とはいえ、手術後のナーバスモードの彼に同僚と楽しく飲んできてなんて言えない。
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