今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「でも、私のことは送ってくださるんですね」

「君が上手に煽るから」

「煽ってませんってば」

夜間出入口を出ると、待機していたタクシーを捕まえ、ふたりで後部座席に乗り込んだ。

「待たせたお詫びも兼ねて食事をご馳走するよ。病院からあまり距離を取りたくないから、俺の自宅でかまわない? 味は保証する」

自宅と言われて、一瞬ぎょっと言葉を呑み込む。

とはいえ、手術直後は万一連絡が来たときに備えて遠出ができないのだろう。かといって、病院の近所という制限付きでこの時間から食事処を探すのはむずかしい。

彼だって疲れているだろうし、外食より自宅で済ませるほうが楽なはずだ。ここは私が合わせるべきだろう。

……たとえ、彼の家にお持ち帰りされるという事実に抵抗があったとしても。

「わかりました……お食事だけ、ですよね」

私の言いたいことを察したのか、彼はニヤリと意地悪な笑みを浮かべる。

「君が望むなら、その先もかまわないけれど」

「望みません」

「……つれないねぇ」
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