今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「それ本気で言ってるの? ひどいなぁ。君だけなのに」

「仮にそうだとしたら、手が早すぎると思いませんか? 先日、初めてお会いしたばかりなのに」

彼はやれやれと嘆息して、エレベーターホールの乗降用ボタンを押す。

すでに一機、一階に待機しており、すぐに扉が開いた。

「それを言ったら、君だって警戒心なさすぎだよね。知り合ったばかりの男の家についてくるなんて」

私は足をぴたりと止める。

彼は先にエレベーターに乗り込み、操作パネルの前に立ち『開』ボタンを押しながら私が乗り込むのを待っている。

「乗らないの?」

彼が艶やかに微笑む。

いやいや、そんな言い方をされたら、ついていくことなんてできないじゃない。

私が躊躇っていると、彼はおどけるようにクスクスと笑った。

「冗談だよ。言っただろう? 食事だけだって。だいたい君は眞木先生の紹介だし、院長からも直々に依頼を受けている。失礼なことなんてできないよ」

それもそうか、と私は肩の力を抜いた。私と彼はビジネスで結ばれた関係。それ以上の展開なんて起きないはず。
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