【1/2 英語版③巻オーディオブック発売・電子先行③巻発売中】竜の番のキノコ姫 ~運命だと婚約破棄されたら、キノコの変態がやってきました~ 第1章

16 王家の陰謀でしょうか



 帰宅して事の次第を父ブノワに説明したアニエスは、大きなため息をついた。
「……これは、王家の陰謀でしょうか」
「どういう意味だい?」

「端くれとはいえ王族のフィリップ様と結婚するバルテ侯爵家のイメージを保つために、円満な婚約解消であることを印象付ける狙いが」
 真剣なアニエスの様子に、ブノワはティーカップを置いた。

「円満も何も、公衆の面前で婚約破棄したのだから、隠しようがないよ。それに、クロード殿下は関係ないだろう?」
「仲裁に入ってしまった、貧乏くじなのでは。王太子殿下は婚約者がいるのでアレですし、殿下なら見目麗しく女性から人気なので、私がほだされると思ったのではないでしょうか」

「おや。アニエスは、ほだされるのかい?」
「まさか。殿下が不憫だな、とは思います。あと、キノコあしらいは上手いですが」
「……キノコ、やっぱり生えたのかい」

「頑張りましたけれど、それなりに生えました。その上、キノコにプロポーズされました」
 不本意ながら馬車に乗って舞踏会に参加したのだから、あれでもかなり頑張った方だと思う。
 事情を知っているブノワは複雑そうな表情でうなずいた後、暫くしてようやくアニエスの爆弾発言に気付いた。


「――プ、プロポーズ?」
「キノコに、です。私はついでです」
「意味がわからないよ、アニエス」
 アニエスだって理解しきれないが、その場にいないブノワは更にわけがわからないだろう。

「どうやら、殿下はキノコの変態王子だったようです。私の出したキノコにひとめぼれしたから婚約したい、と言われました」
「……それで、何と答えたんだい?」

「どうにか宥めた結果、殿下の片思いで運命の恋の相手で良いと言われました。なので、考えさせてくださいとお伝えしてあります」
 ブノワは一人で百面相をすると、やがてがっくりと肩を落とした。

「……殿下直々のお声がけとなれば、勝手に平民になって断るわけにもいかないだろう。暫くは殿下にお付き合いしなさい。それに、確かにおまえの悪印象を消すのに良いかもしれない」
「浮気の末に婚約破棄された女から、元婚約者の従兄王子にすり寄ってキノコを生やす女に変わりますね。あまり良いとは思えません」

 そう、よく考えてみればクロードはフィリップの従兄であり、王族。
 しかも、圧倒的にクロードの方が身分が高く、将来性がある。
 これではアニエスの方が男を渡り歩くしたたかな女性、ということになりかねない。
 アニエス自身の悪評など今さらなのでどうでもいいが、ルフォール家と弟のケヴィンに迷惑をかけるのは困る。

「すり寄られて大人しく一緒にいる方ではないと皆知っているのだから、大丈夫だよ」
 確かに、クロードは浮名の一つも流さないし、女嫌いという噂すらある。
 そこにアニエスが一緒にいたからと言って、篭絡されたと思うこともないか。
 何せ、今までクロードの周囲には身分も容姿も申し分ない御令嬢が、山ほどいたはずなのだから。

 こうなると今まで女性を寄せ付けなかったのは、女性が云々ではなくてキノコが不足していたからなのではないだろうか。
 もしも御令嬢達がキノコ持参でクロードに接近していれば、案外あっさりと上手く行ったのかもしれない。

「それにしても、おまえはとことん厄介な王族に好かれる性質だな。……どちらにしても、アニエスが平民になる必要はない。いいね」
 別に好かれているわけではないのだが、厄介という点では納得だ。
 不満はなくならないものの、アニエスは渋々うなずいた。



「おかえり、姉さん。舞踏会はどうだった?」
 ブノワとの話が終わり自室に戻ろうとすると、弟のケヴィンが部屋に入って来た。
「……複雑ですね」
 不満を隠さずにそう言うと、ケヴィンはブノワが座っていたソファーに腰を下ろす。

「それで、噂の王子様は格好良い?」
「まあ、そうですね。見てくれは素晴らしいです」
 中身はキノコの変態だったが。

「あれ。フィリップ様がいいの?」
「――それはありません。今や、ただの勘違い浮気野郎です。今日もわけのわからないこと言っていましたし、キノコまみれにしてやりたいくらいですよ。……何で今まで大人しくしていたのか、自分でもわからなくなってきました」
 不満を訴えるアニエスをじっと見ていたケヴィンは、にこりと微笑んだ。

「なら、クロード殿下と仲良しだと見せつければいいよ。姉さんはいつも、フィリップ様が嫌っているからと髪の毛もぎゅうぎゅうにまとめていたし、化粧もほとんどしていない。これからはその綺麗な桃花色の髪と美貌を見せつけよう」
「そうは言っても、ない美貌(もの)を見せるわけにはいきませんよ」
 すると、ケヴィンの眉間に皺が寄っていく。

「フィリップ様が長年言い続けたせいで、姉さんの認識が歪んだんだ。あのへなちょこ王族め」
「ケヴィン?」
 首を傾げるアニエスの隣にやって来ると、ケヴィンは手を握りしめた。

「姉さんの髪は確かに珍しい色だし、嫌う人もいる。でも、大多数から見ればとても綺麗な色だ。それに、姉さん自身も結構な美人なんだよ? フィリップ様も、失ったものの大きさを思い知ればいいんだ」




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自宅に戻ったので、ノー・キノコデーです。

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