李世先輩は私のことを知り尽くしている?
どう切り出そうか迷った俺は、やがて素直に思っていたことを口にする。
「トイレ行くっていうの、ウソでしょ。俺たちに気を遣って、席を離れようとしたんだよね?」
「……わかってるなら、どうしてついてきたんですか」
陽茉ちゃんにしては珍しい、トゲのある言葉。
何も考えずとも、俺は答えていた。
「陽茉ちゃんのこと、放っておけないから」
陽茉ちゃんはしばらく押し黙った後、せきが切れたように涙をこぼす。
「あの子と、なにがあったの?」
ハンカチを渡してそうたずねると、陽茉ちゃんは事の経緯を教えてくれた。
「そっか……。じゃあ、さっきは仲直りしたくて声をかけたのかな?」
「はい。でも、あんなに怒るなんて……。もう、友達でいるのは無理ですよね……」
それは違う。
陽茉ちゃんとつぼみちゃんは、お互いを大切な存在だと思っているからこそ、亀裂が生じてしまったんだ。
「俺は、そんなことないと思うよ」
「えっ……あんなに怒ってたのに、ですか?」
「えーと、確かに怒ってはいるんだけど……いや、これ以上は俺が言っちゃいけないな」
俺は全てを話してしまいたい気持ちを抑えこむ。
これは、陽茉ちゃんとつぼみちゃんの問題なんだから。
俺にできることは――。
「とにかく、もう一度だけ、つぼみちゃんと向き合ってみなよ。きっと、仲直りできるから」
「は、はい……」
陽茉ちゃんはうなずいたものの、訝しむような表情をしている。
女の子同士で思いっきり手をはたかれるシーンを見て、仲直りできるよって堂々と言ってのけられたら、当然の反応か。
それにしても、陽茉ちゃんって、顔に出やすいな。
……そこも、好きなところの一つだけど。
この時の俺は、後に陽茉ちゃんがつぼみちゃんを巡ってあんな行動をとるなんて、思いもしなかったのだ――