李世先輩は私のことを知り尽くしている?
一刻をも争う可能性があるこの状況に、俺の足は自然と速まる。
慎重に、かつ手早く登っていると、
「きゃっ!!」
短いが、確かな悲鳴が再び鼓膜を揺らす。
聞き覚えのあるその声に、心臓が止まるかのような錯覚におそわれる。
どういうシチュエーションで悲鳴が上がったのかは、全く分からない。
でも、今のは……陽茉ちゃんの…………。
一転し、激しく鳴り響く鼓動をどうにか押さえつけ、手足を動かす。
すると、真っ青な顔で引き返してくるあの二年生と鉢合わせる。
「き、菊里……」
「さっきの悲鳴、なにがあったの?二回聞こえたけど」
相当動揺しているのか、目がしきりに泳いでいて、視線が合わない。
そのせいで心の声を聞くことはできなかったけど、素直に口を開いた。
「は、班の一年が、落っこちちまって……そしたら、急に別の班の女子が来て、そいつも途中で落ちて……」
「はあ⁉」
別の班の女子、というのは陽茉ちゃんのことだ。
じゃあ、さっきの悲鳴は……落っこちた拍子のものだったってこと……?
めまいがするのを必死にこらえて、俺は深呼吸をする。
「今、俺の班のやつが先生を呼んできてくれているから、落ち着くんだ。お前まで足を滑らせるなよ」
「あ、ああ……」
「救急車や救急隊なんかも呼ぶように言っておいてくれ」
俺はポンと肩をたたくと、陽茉ちゃんたちがいる方へと進む。