李世先輩は私のことを知り尽くしている?
バスで海辺の宿泊施設に戻った俺は、陽茉ちゃんが戻ってくるのを待つことにした。
念のためつぼみちゃんと一緒に救急車で運ばれていったけど、すぐに帰ってこられるはず。
バスから降りて、ぞろぞろと施設の中へ吸いこまれていく人混みを目で追っていると、射貫くような視線を感じた。
振り向くと、ボサボサの真っ黒な長い前髪に覆われた、古瀬くんが立っていた。
「古瀬くん、さっきは色々ありがとう。おかげで陽茉ちゃんも、陽茉ちゃんのお友達も無事に救助できたよ」
にこやかにそう告げたが、古瀬くんからは何もレスポンスが無かった。
目元が隠れているせいで、表情が読み取りづらければ、いざというときに心も読めない。
心の中をのぞけることが当たり前の俺にとっては、ちょっと苦手なタイプ。
ここからどうしたものかと古瀬くんの出方を伺っていると、ふいに口元が弧を描いた。
「……どうかした?」
「……俺、面白いことが好きなんです」
古瀬くんはこれまで、どこか素っ気無いというか、冷めたような印象があった。
でも今、その声音には一種の熱が籠っていて、不気味にさえ感じられる。