李世先輩は私のことを知り尽くしている?
「面白いこと……?」
「ええ。それも、大勢がそう感じてる事柄ではなく、俺しか知らない、閉ざされているものが」
「そう。古瀬くんのその趣味に、俺は何か関わっているの?」
「もちろん。今、俺が気になっているのは、菊里先輩と蓮井さんの関係なんですから」
「……!」
「端正な顔立ちで人気者の先輩が、特に取り柄もない一年生に構う理由。前々から不思議に思ってはいたんですけど、同じグループのメンバーとして過ごすうちに、確信に変わりました。――菊里先輩、なにか隠しているんじゃないですか?」
古瀬くんの二つの目は髪に隠されて見えないのに、俺はまるで蛇に睨まれたような感覚に陥った。
体が強張るのを必死に抑え、軽くあしらうような笑みを浮かべてみせる。
「……なにかって、なに?身に覚えはないんだけど」
「そうですか。でも、そういう反応をされた方が、余計に興味をそそられますね」
その言葉通り、古瀬くんは本当に楽しそうだ。
……くそっ、どこまで俺のことを知っているんだ?
心を読めないことが、こんなにも歯がゆいなんて。
とにかく、動じてはいけない。
「いくら掘っても、何も出てこないよ?」
「ご忠告ありがとうございます」
古瀬くんは満足した様子でくるりときびすを返し、あっという間に人込みへと消えた。
――俺が陽茉ちゃんに構う理由、か。
最初に陽茉ちゃんに興味をもった理由は、言動や見た目の心の声とのギャップだ。
俺が普通の人間だったら、もうとっくに陽茉ちゃんのことなんて、頭から抜けているかもしれない。
……だからこそ、古瀬くんの読みは、鋭い。
古瀬くんの前では、これから気を付けなければ。
もう二度と、あんな思いはしたくないから――。
俺はそっと冷や汗をぬぐい、唇を食んだ。