李世先輩は私のことを知り尽くしている?
いつもは暇を持てあます下校時間が、あっという間に過ぎ去った。
私の最寄り駅まででいいと言ったのに、結局、本当に家まで送ってくれて。
「たくさん話せて、マジで楽しかった。ありがとな」
「いやいや、こちらこそ。こんな遠いところまで、ありがとう」
「オレ、明日は部活あるけど、明後日はまた休みなんだ。だからさ、帰り、どっか寄ってかない?」
江真くんの提案に、私はわずかにうなずく。
「う、うん。いいよ」
「うれしい。じゃ、また明日、クラスでな」
江真くんはブンブンと手を振って、元来た道を歩いていく。
あれ、江真くん……私と一緒に歩いていた時より、かなり歩幅が大きいし、何より早い。
私に合わせて、ゆっくり歩いてくれてたんだ。
どんどん遠ざかっていく江真くんの後ろ姿を眺めながら、家のドアに手を伸ばす。
「ちょっと、陽茉――っ!!!!」
「わっ⁉」
ドアノブをつかむ前に、内側から思いっきり開いて、お母さんが飛び出してきた。
驚く私の肩をガッチリつかみ、まくしたてる。
「ちょっと、さっきのイケメン、なに⁉家まで送ってくれるなんて……もしかして、彼氏っ⁉」
「ち、違うってば!一緒に話しながら帰ってきただけ!」
「うふふふ。まあ、そういうことにしときましょうね。ご挨拶、ウチはいつでもオッケーって伝えておいてね!」
「ちょっと、ホントに違うんだって!お母さん!」
ここ最近見たことのなかった、特大ニヤニヤ顔。
慌てて否定したけど、お母さんの耳には届いていないようだ。
確かに、彼氏と言われれば、間違いではないのかも……しれないけど。
あくまで、一週間のお試しなわけで……。
はあ、お母さんに見られちゃうなんて、面倒くさいことになったなあ。
それに、江真くんの顔を覚えられちゃったら、もし李世先輩と会ったときにまたややこしく――……
あれ、なんでここで、李世先輩の名前が出てきたんだろう。
江真くんとこのまま付き合い続けることがあっても、彼女がいる李世先輩とお付き合いすることなんて、0パーセントなのに。
……夜ご飯まで、ひと眠りしようかな。