李世先輩は私のことを知り尽くしている?
ほんの数秒とはいえ気まずい沈黙が流れる中、口火を切ったのは、江真くんだった。
「そ、そうだけど」
「やっぱり!オレ、バスケ部なんですけど、先輩がいつも菊里先輩のこと話してるんです。『アイツがうちに来てくれれば、予選通過は楽勝なのに』って。明日からでも、ぜひどうですかっ?」
目が輝かせて話す江真くんに、李世先輩は静かに首をふる。
「ごめん、球技は頼まれてもやらないから。俺は陸上一筋なんだ」
「そうですかー、残念だなあ」
「ところで。手をつないでるその子は、君の彼女?」
「その子」、なんて他人行儀な呼び方をされて、ドキッとする。
李世先輩は笑顔を浮かべてこそいるけど、その目は全く笑っていない。
「い、いや、違——」「はいっ!」
間髪入れずに否定しようとしたけど、江真くんの方が勢いも声量もあって、カンペキにかき消されてしまった。
江真くんの返事に、李世先輩はますます顔を強張らせる。
……なんだか、こんなことが前にもあったような。
でも、あの時よりもさらに表情が険しい。
「へえ、いつから付き合ってるの?」
「今週からです!」
江真くんは李世先輩の異変に気付いていないのか、ニコニコしながら答えている。
「今週……。告白はどっちから?」
「オレからです!」
「そう」
この地獄のような一問一答は、いつまで続くんだろう……。
そうひっそりと思っていると、突然、李世先輩の鋭い視線が私へ向いた。
とっさに、視線を逸らしてしまう。
「オッケーしたってことは、陽茉ちゃんもこいつのこと、好きなの?」
「え……と……」
そもそもオーケーしてないです、という冷静なツッコミは、できなかった。
江真くんのことを、好きなのか好きじゃないのか。
私はそのことを、ぐるぐると考える。
――この三日間江真くんと接してみて、楽しい人だなって感じた。
だから、嫌いというわけじゃない。
でも、好きなのかって言われると、まだピンと来なくて。