李世先輩は私のことを知り尽くしている?

「ん、李世?なにしてるの?」



李世先輩の背後から、このギスギスした空気に合わない涼やかな声が響く。


声をかけてきたのは、キレイな女の人だった。


サラサラな黒茶のロングヘアに、ぱっちりくっきりとした瞳と二重。


身長もスラッと高くて、まるでモデルさんみたい。


そして両の手には、おいしそうなクレープが1つずつ握られていた。



……もしかしてこの人が、ウワサの李世先輩の彼女さん?



ふいの出来事に、李世先輩の私をつかむ力が、わずかに緩む。


江真くんはその瞬間を見逃さず、私の肩を引き寄せて、李世先輩の手をはらった。




「今のうち!行くよ、陽茉!」




江真くんに背中を押されながらも、私は李世先輩の方を振り向く。




「陽茉ちゃん!!」




そう叫ぶ李世先輩の顔つきは、真剣で必死だった。


まるで、魔王につれていかれるお姫様を、行かせまいとする勇者みたい。


江真くんがどんな人なのか、初対面の李世先輩は全く知らないはずなのに。



――どうしてそんな表情を浮かべているの?


どうしてそんなに必死に、私に構ってくれるの?


一人の友人として?


でも、こんなの傍から見たら、江真くんが言っていたみたいに……嫉妬してるように思われても、おかしくない。


この場面を静観している李世先輩の彼女は、なにを思っているんだろう。



……きっと、口に出さないだけで、怒っているよね。



あんなにステキな彼女さんを、悲しませるなんて。




李世先輩の行動一つ一つが、うまく飲みこめない。



……今、私にとって分からないのは……得体が知れないのは……







――李世先輩の方だ。






「……私なんかより、彼女さんを大切にしてあげてください」




どうにか李世先輩にそう言うと、その場に立ち尽くす先輩を尻目に、前を向く。


そのまま振り返ることなく、江真くんと一緒に広いショッピングモールを駆けた。




……李世先輩という敵から逃げるように。
< 154 / 201 >

この作品をシェア

pagetop