李世先輩は私のことを知り尽くしている?

私は古瀬くんに、江真くんから告白されたこと、李世先輩に彼女がいるという話を聞いたこと、その彼女と一緒にいた李世先輩と江真くんが、ショッピングモールで一触即発になったことを説明した。



「……へえ、菊里先輩、北条くんと見つめ合った直後、急に様子がおかしくなったの?」



古瀬くんの目が光る。




「うん。まるで人が変わったみたいに、江真くんに詰め寄って……『陽茉ちゃんを傷つけようとしているやつに、この子は渡せない!』って」




あのときの李世先輩、すごく怖かったなあ……。





「菊里先輩、北条くんと顔見知りなんですか?」

「ううん、北条くんの方が一方的に知っていただけみたい」



「……面白いね」





ぼそりとつぶやいた古瀬くん。


表情は全く分からないけど、心なしか楽しそう。



「え、なにが?」




きょとんとして聞き返すと、古瀬くんは口元を手で覆い、立ち上がった。




「僕、図書室に本返しに行ってきます」




えっ、ウソでしょ、まだ状況を話しただけなんだけど……。


自由奔放なふるまいに呆気に取られている私を、古瀬くんはチラリと一べつする。




「菊里先輩のことは、悩むだけムダだと思いますよ」


「そ、それって、どういうこと?」


「……僕は別に、キューピットになりたいワケじゃないんで」





古瀬くんは温度を感じさせない声音でそう告げると、分厚い本をスクールバッグから取り出して、教室を出て行ってしまった。




……李世先輩のことも分からないけど、それ以上に古瀬くんのことが分からないかも。


まるで、いくらつかもうとしてもつかむのことのできない煙みたいな人だなと、私は思った。



――ていうか、悩むだけムダって、どういうことなの……⁉

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