李世先輩は私のことを知り尽くしている?

「……江真くんには、私なんかよりもっといい人がいるよ」



そう静かに、でもはっきりと告げると、だんまりだった江真くんの体がわなないた。




「……このっ……オレに恥かかせやがって……!」





突然、あの優しかった江真くんが、私に向かって拳を振り上げる。



悲鳴をあげる間もなかった。



なすすべもなく、握られた拳が、みるみる私の体に近づいていく――。






「やめろ‼‼」





ピタリと、江真くんの腕が止まる。


思わず私も肩を揺らしてしまうくらい、その声には気迫があった。




「り、李世先輩……」




李世先輩は江真くんをにらみつけた後、なぜか後ろを振り向き、廊下に向かってつぶやく。




「全員、顔は覚えたからな」




その直後、バタバタと逃げるように、複数の足音が遠のいていく。



つ、つまり……見られていたってこと⁉



李世先輩が教室に入ってくると、江真くんは壁際まで後ずさりする。




「陽茉ちゃんをお友達との遊びのダシにしようとした挙句、暴力まで振るおうとするなんて。男の風上にもおけないな」




李世先輩の憐れむような視線に、江真くんの瞳が揺れる。




「……まさか、最初から『賭け(ゲーム)』に気づいていて、オレから陽茉を引き離そうとしていたんですか?」


「ああ、俺は人より隠し事に聡くてね。君が下種な男だってことは、端から分かっていたよ」


「……くそっ……」




ギリッと歯を食いしばる江真くん。


私には、二人の会話がサッパリだった。



でも、ものすごく嫌な感じがする。





「あ、あの、『ゲーム』って、なんのことですか……?」




不安と緊張のせいで、か細い声になってしまった。



私の問いに、李世先輩は一瞬ためらったものの、口を開いた。
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