李世先輩は私のことを知り尽くしている?
そんな私を見て、李世先輩はふっと優しく吐息をもらした。
「どうやら、陽茉ちゃんの完勝みたいだね。ゲームとしても、人間としても」
江真くんは、目を伏せて唇を噛むばかりで、何を言わなかった。
「陽茉ちゃんの言う通り、君にはもっと『いい人』がいるさ。――君に、陽茉ちゃんは見合わない」
江真くんは無言のまま、私たちの横を通って、教室を出ていった。
耳鳴りがするくらいの静寂が訪れた教室。
久しぶりの、李世先輩との二人きりの時間。
気まずくなってしまってからはまともに会話していなかったから、どうやって話を切り出せばいいのか、忘れてしまった。
でも――……
李世先輩の隣は、ひどく、安心する。
「陽茉ちゃん」
名前を呼ばれて顔を上げると、李世先輩は穏やかで温かい、春の太陽みたいな表情をしていた。
「俺のこと、信じてくれてありがとう」
発せられた言葉に、私は驚いて目を瞬かせる。
「あの、私……李世先輩が忠告してくれたのに、江真くんと一緒に逃げたんですよ?」
「でも、最終的には俺のこと、信じたいって思ってくれたんだよね?」
「それは……そうですけど……」
でも、その思いを特別、声や行動にはしていない。
それなのに李世先輩は、まるで私の口から直接聞いたように、喜んでいる。
やっぱり李世先輩は、私のこと、何でも知っているのだろうか。
言葉にせずとも伝わってしまうくらい、私を特別に想ってくれているのだろうか。
……それは、ダメだ。
私は一歩下がって、李世先輩から距離をとる。
「あ、あの……彼女さんがいるのに、私のこと、こんなに構っていて、いいんですか?」
李世先輩のことは信じているけど、万が一にも、二股をかけようとしているなら、話は別だ。
李世先輩はきょとんと目を丸くすると、深く深く、息を吐いた。
「はーーー、やっぱり、そういうことかあ……」
「?」
そういうことって、どういうこと?
首を傾げる私に、李世先輩はからりと笑った。
「俺に彼女はいないよ」
「えっ、でも……ウワサで聞きましたし、実際に、ショッピングモールでだって……」
「あれは俺の実の姉だよ。あの日は荷物持ちに付きあわされてたんだ」
「お、お姉さん……?」
よーく思い出してみると、確かに顔つきが似ていたような……。
じゃあ、李世先輩に彼女がいるっていう話は、勘違いだったってこと⁉
つぼみちゃんとの件で、些細なことですれ違いは起きるって、身をもって知れたはずなのに。
さっそく、盛大にやらかしてしまった……。