李世先輩は私のことを知り尽くしている?
「わっ」
「いたっ」
前を歩いていた人と、かなりガッツリ肩が当たってしまう。
相手も男子高校生で、制服からして、同じ緑央高校のやつだ。
ぶつかった衝撃からか、男子高校生が彼女と思われる連れとつないでいる手に力がこもる。
「すみません」
「いえ、こちらこそ――」
謝りながら何気なく、隣に立つ女子高校生へと目を滑らせた俺は、危うく叫び出すところだった。
男子高校生と恋人つなぎしていたのは、陽茉ちゃんだったから。
さてはこの男が、古瀬くんが言っていた、「陽茉ちゃんに告白したクラスの男子」か。
陽茉ちゃんも俺と出くわすことは想定外だったみたいで、石像みたいに固まっている。
俺と陽茉ちゃんの間に流れるなんとも言えない空気を感じなかったのか、男子高校生ははつらつと口を開いた。
「あれっ、菊里先輩、ですよね?」
どうやら、俺のことを知っているらしい。
二言三言会話を交わしたものの、バスケ部の興味もない話に付き合いきれなくなった俺は、無理やり話題を変える。
「ところで。手をつないでるその子は、君の彼女?」
……なんかさあ、前にもこんなこと、なかった?
でも今回は、前回よりも嫌な予感がする。
「はいっ!」
ほうら、やっぱり。
陽茉ちゃんが何か言いかけていた気がしたけど、男子のはきはきとした声に覆い隠されていた。
「へえ、いつから付き合ってるの?」
「今週からっす!」
「今週……。告白はどっちから?」
「オレからです!」
「そう」
俺の質問にこの男子が間髪入れず答えるという流れを、二順三順と繰り返す。
必要最低限の情報を得ると、ずっと気まずそうにしていた陽茉ちゃんへと視線を移す。
陽茉ちゃんは耐えられなかったのか、すうっと目を逸らした。
「オッケーしたってことは、陽茉ちゃんもこいつのこと、好きなの?」
「え……と……」
陽茉ちゃんは長い間押し黙った後、震える声でようやく答えた。