李世先輩は私のことを知り尽くしている?
考えるよりも先に、足と手が動いてしまう。
このとんでもない男と陽茉ちゃんのつないだ手を離そうと、両側に力をこめる。
「ちょっと、なにするんですか!」
「こっちのセリフだ!お前なんかに……陽茉ちゃんを傷つけようとしているやつに、この子は渡せない!」
「は、はあ?先輩、急にどうしちゃったんですか?」
まさかどす黒い心の内を読まれたとは知らないこの男は、狂人を目にしたような表情で俺を見てくる。
もちろんそんなのは無視して、今度は陽茉ちゃんの空いている方の腕をつかんだ。
とにかく、一刻も早くこいつから陽茉ちゃんを遠ざけないと。
焦りからか、この男への怒りからか、みるみる指に力がこもっていく。
「い、痛いっ……」
「陽茉ちゃん、行こう。こいつといちゃダメだ」
陽茉ちゃんを無理やり引きはがそうとすると、再びこの男が俺の前に出てくる。
「菊里先輩、陽茉が痛がってますけど。傷つけてるのは、そっちじゃないですか?」
「……っ! いいから、陽茉ちゃんから手を離すんだ!」
くそっ、澄ました顔で正論を言いやがって。
このショッピングモールにいる人全てに、こいつの腹の中を明かしてやれたら、どれほどせいせいするだろうか。
この能力を隠して生きている俺に、到底そんなことはできないけれど。
そんな時だった。
「ん、李世?なにしてるの?」
背後から、俺の様子を伺うような、涼やかな声が響く。
振り返ると、美和姉がクレープを2つ抱えながら、首を傾げていた。
……げっ、このタイミングで、姉貴が戻ってくるなんて……。
美和姉に気を取られた俺は、隙を作ってしまった。
この男はその瞬間を見逃さず、陽茉ちゃんを自分の方に引き寄せ、容赦なく俺の手を打ち払う。
しまった……!!