李世先輩は私のことを知り尽くしている?
「おはようございます、菊里先輩」
「おはよう……」
「あれ、先輩、体調でも優れませんか?」
「いや、万全だよ」
「それならよかったです」
挨拶代わりと言わんばかりに俺をおちょくってきているのは、古瀬くんだ。
陽茉ちゃんの様子がおかしい理由がわかってからは、古瀬くんにお願いして、毎日二人の動向を探ってもらっている。
といっても、俺がお願いしなくとも、古瀬くんは常に聞き耳を立てている気がするけど……。
なぜか古瀬くんはこの騒動のことをかなり知っていて、あの男(北条くんと言うらしい)と陽茉ちゃんの関係も、詳しく教えてくれたのだ。
「今日は、いよいよ動きがありましたよ」
「なに⁉」
もったいぶるような古瀬くんの言葉に、俺はつい声を荒げる。
「今日の放課後、北条くんが蓮井さんに改めて告白の返事を聞くみたいです」
……いよいよ、北条くんにとってネタばらしの絶好の機会が来たってわけか。
「放課後なら俺も行けるな。場所は?」
「1-Aの教室です」
「教室か。……古瀬、本当にありがとう」
「いえ。このまま先輩と蓮井さんのつながりが無くなってしまったら、僕も困るので」
「そ、そうか……」
やはり、あまり情報を握らせるのはまずそうだな……。
「先輩、くれぐれもうまくやってくださいね」
「ああ、言われなくとも」
俺は、陽茉ちゃんをとり戻すことのできなかった手のひらを眺めた後、ギュッと握りしめた。