李世先輩は私のことを知り尽くしている?

改めて教室に足を踏み入れると、北条くんはじりじりと壁際まで後ずさりする。



「陽茉ちゃんをお友達との遊びのダシにしようとした挙句、暴力まで振るおうとするなんて。男の風上にもおけないな」


「……まさか、最初から『賭け(ゲーム)』に気づいていて、オレから陽茉を引き離そうとしていたんですか?」


「ああ、俺は人より隠し事に聡くてね。君が下種な男だってことは、端から分かっていたよ」

「……くそっ……」




北条くんは顔をゆがめて歯ぎしりする。




「あ、あの、『ゲーム』って、なんのことですか……?」





状況を把握できていない陽茉ちゃんに、俺はためらいながらも真実を打ち明ける。



「……こいつは、バスケ部のお友達と悪趣味なゲームをしていたんだ。――陽茉ちゃんに告って、落とせるかどうかっていうね」


「そ、そんな……」




陽茉ちゃんはやはり、目の前がくらむようなショックを受けた様子だった。


そしてほんの一瞬、北条くんに対して、刺すような視線をぶつける。


――思わず俺までもが、ゾクリとしてしまうほどの。




でも、次に顔を上げたときには、元通りの穏やかな陽茉ちゃんに戻っていた。


自分を騙していた北条くんに対する、哀れみさえ伴って。



……陽茉ちゃんは、優しいだけじゃなくて強い子だってことを、俺は実感する。





「どうやら、陽茉ちゃんの完勝みたいだね。ゲームとしても、人間としても」





北条くんは目を伏せて唇を噛むばかりで、何を言わなかった。




「陽茉ちゃんの言う通り、君にはもっと『いい人』がいるさ。――君に、陽茉ちゃんは見合わない」




北条くんは何も言い返すことなく、黙ったまま俺と陽茉ちゃんを一べつし、教室を去った。



【……オレはなんてくだらないことをしたんだ。】




そんな後悔の心の声を残して。



あまりにも切実なものだったから、北条くんが出て行ったドアの方を振り返ってしまった。



視線を戻すと、陽茉ちゃんはもじもじと指をいじっていた。



……そうだ、俺は陽茉ちゃんに言いたいことがあったんだ。



俺を信じてくれたことへの感謝。



そしてもう一つ――俺に彼女はいないという事実だ。
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