李世先輩は私のことを知り尽くしている?
足りないもう一歩

すれ違いを超えて


7月に入ると、セミの大合唱をBGMに、さんさんと日の差す猛暑日が続くようになった。


江真くんとの一件が終わると、今までと何も変わらない、穏やかな学校生活が私を待っていた。


『ゲーム』のことを知っている人たちから、からかわれたりしないか少し不安だったけど、杞憂だったみたい。


ものすごく怖い顔で李世先輩がくぎを刺していたおかげなのかな?



江真くん本人とも、あれ以来一度も話していない。



でもそもそも、クラスの中心人物の江真くんと、地味系女子の私が一緒にいる方が不自然だったわけで。



交わりのなくなったことで不自由することは、お互い何一つない。



不思議と、同じ空間にいることへの気まずさもないし。



大変だったことと言えば、梓ちゃんの方だ。


事の顛末を話すとそれはもう怒り心頭で、いつ江真くんに殴りかかってもおかしくない状態がしばらく続いたんだよね。


私のために怒ってくれていることはすごくうれしいけど……梓ちゃん、本気でやりかねないからヒヤヒヤしたなあ。



最終的には、「陽茉が許したのなら私も許す」って納得してくれてよかった。



とにかく、平穏でそれなりにはにぎやかな学校生活が戻ってきたんだ。





「あ。おはよ、陽茉ちゃん」


「お、おはようございます」


「今日は一段と暑かったね」


「ですね。あの、制汗シート、よかったら使いますか?」


「いいの?ありがと」




――それは、李世先輩との関係にも当てはまる。



自然教室以降、ずっと微妙な距離感だったけど、元通り、何気なく話せるようになった。


いや、心の距離は、さらに縮まった気がする。


連絡先を交換したことで、学校以外でもお話できるようになったし。




……なにか言いづらいことがあるらしいのは、少し気になるけど。


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